火葬ともいう

持っていて痛いとされる本の中に、歴史改変ものというジャンルがござります。
読んで字のごとく、私たちの世界とは別の歴史をたどった世界における事件やら何やらを描いた本で、歴史学者田中彰氏いうところの「未発の可能性」が実現したと仮定しての小説ということになります。
歴史学では「もし」がタブーとされているようですが、小説は学問ではなく娯楽なので問題ないことにしましょう。
さて、この種の本を持つことが痛いといわれる理由は、日本におけるそれがずいぶんと偏った方向性のものであることだと聞いております。
要するに、歴史の決定的な転換点が第二次世界大戦前後に集中し、結果として日本がボロ勝ちしてしまうような筋の本が多いということでしょう。
代表的なものに、荒巻義雄の「紺碧の艦隊」「旭日の艦隊」シリーズなどがあります。私は読んだことないけど。
さて、痛いといわれる理由ですが、これは簡単。
あまりにストーリーが過激、荒唐無稽またはその両方な本が多々あり(先述の艦隊シリーズもよく槍玉に上がります)、それらが歴史改変ものの代表格とされているからです。こうした主に仮想戦記小説とよばれる品々は、侮蔑や愛情をこめて「火葬戦記」などと駄洒落を言われています。
もっとも、架空の歴史の中で勝利と正義をかみしめているわけで、そもそもこのジャンル全体が現実逃避気味といわれるのも故なしとはいえないでしょう。私の知るもっとも壮大な仮想戦記「信長新記佐藤大輔著)」では、物語中の緒言として次のような言葉が出てきます。

もし我々が現在に不満を覚えるのならば、それを変革する努力に手をつけねばならない。
後ろ向きの妄想になどひたっているべきではない。

正直、これを仮想戦記の緒言にもってきた作者に深い敬服を覚えざるを得なかった私ですが、さて、こうした歴史改変もの&仮想戦記は日本だけの専売特許というわけではありません。
おとなり韓国では、歴史改変ものではないにしろ近未来仮想戦記として韓日戦争ネタが大人気らしいですし(まあ、そこでの日本の位置づけは推して知るべし)、大ヒット作「ムクゲの花が咲きました」をはじめ、実際に映画にもなっています。最近では「韓半島」が比較的知られていますかね。
ちなみに、なぜか日韓合作になり、俳優の仲村トオルさんが向こうで賞までもらったSF「ロスト・メモリーズ」は完全な歴史改変ものでした。
もちろん韓国だけではありません。近未来仮想戦記は、売れているかどうかは別として、米英では大量に発刊されています。超がつく大御所、トム・クランシーが有名でしょうか。
ところが歴史改変ものとなると、これが数少ない。そんな中で、私がはじめて手に取った欧米の歴史改変もの(ジャンルはSF)からひとつ、紹介したいと思います。