まじめなバカは面白い

諸葛孔明対卑弥呼 (ハルキ・ノベルス)

諸葛孔明対卑弥呼 (ハルキ・ノベルス)

というわけで。
町井登志夫著「諸葛孔明卑弥呼」を紹介します。
本来は私の尊敬するid:kitayasu氏に勧められた同じく町井登志夫の「爆撃聖徳太子」を読みたかったのですが、どこを探してもなかったので変わりにこちらを読んでみたのです。が、これが面白い。
まず設定が凄いんですよ。題名から分かるとおり卑弥呼孔明と対決するんですが、それは後ろ三分の一で、私が興味を引かれたのはむしろその前、倭国で話が展開している時でした。
それと、その倭国(と中韓)の舞台設定。
はるかな過去の話なのに、そのにぎやかな事、そしていかがわしい事、まるで近未来SFのごとしです。下手な愛国者なら怒髪天を衝きかねません。
正直私も最初は腹が立ちましたが、読み進めていくうちにそんなみみっちい事を言ってはいられなくなりました。
例によって、ストーリーはこちら。

建安十三年、西暦二〇八年。
八門遁甲を駆使する軍師、諸葛亮孔明の策によって、呉軍を主体とする孫権劉備連合軍は、圧倒的な優勢に立っていた曹操軍を壊滅させた。
この大敗により、曹操孔明と同等の軍師を、例え漢人以外の蛮族であろうと有能であれば誰でも、自軍に引き入れようと考えはじめる。


十年後。はるか東夷の地、倭国に舞台は移る。
中国系の国・奴国の王子でありながら、原住民(縄文人)との子であるため王位継承権を持たず、外交官として暮らしている難升米は、公務で部下と末盧国にやって来ていた。
しかし港町ゆえに都市国家らしからぬ開放的な空気を持つこの国が、今日にかぎって門を閉ざしたままでいる。韓国出身で中国嫌いの警備主任との押し問答のすえ、やっと彼らは入国するが、今度は彼らの前に謎の女兵士(時代背景を考えれば珍しいではすまない)が現れ、彼らを環濠へと引っ張り出す。
結局そこで騒ぎに巻き込まれた彼らは、翌朝国王に謁見するが、そこで奴国王へ「卑弥呼恐るべし」との言づてを頼まれ帰国した。
くだんの謎の女兵士が、原住民の国・邪馬台のものだと考えた彼に、今度はその邪馬台国へ潜入せよとの命が下る。
邪馬台国はありあまる人手を使って女王のいる集落の周りに衛星国を作り、周辺各国から警戒されていた。逆に邪馬台国も国境警備の凄まじさで有名だったのだが、その邪馬台国に離は外交官としてではなく、スパイとして行かされる破目になってしまった。


その頃、当の邪馬台国では騒ぎが持ち上がっていた。条約を結んだ名目上の宗主国である漢帝国ももはやあってなきがごとし、倭国には興味をかけらほども持っていなかったはずの中国から、艦隊がやってきたというのだ。

架空古代戦記、などと銘打ってはありますが、登場人物の一部が人格的に壊れているだけで、後は至ってまじめな戦記小説です。
上に書いたように、舞台設定のはじけっぷりは想像を超えていますが。
前半部の重要な条件になるので以下ネタバレと明記しますが、なにしろいわゆる倭国三十国、物語世界では倭国連合という相互不可侵条約を結び、ひとつの国として漢帝国に臣従している小国たちは、そのほとんどが中国や韓国からの植民者、あるいは難民によって支配されている国々なのです。原住日本人、つまり縄文人を劣等民族として扱っていないのは邪馬台国とその衛星国ぐらいのもので、それにしたって最初は中韓の植民者が建てた集落で、混血をいとわなかったせいで周囲から軽蔑され、また現在では人口と武力で恐れられている国だというのです。なんか今の日本に似てるのは気にしない。
個人的には古代朝鮮を「韓国」と呼ぶのには抵抗がありますが、私は朝鮮という地名がいつ出来上がったのか知りませんし、舞台になっている三世紀初頭には三韓なんてものもありましたので、ここは作中表記に従います。
とにかく、この世界での「倭国」のカオスっぷりは恐らく日本史の常識から言って並ではないでしょう。この後に「逆説の日本史 古代黎明編」とか読むと、もう訳が分からなくなります(笑)。
そうそう、上の白塗り部を読んで腹を立てた右翼の方々へ、そして歓喜した在日某国人並びそれに準じる方々へ、安堵と失望を呼ぶ原作者からの一言。

これが現実の世界かどうかなんて問題じゃありません。