亡霊は夜歩く

亡霊は夜歩く 名探偵夢水清志郎事件ノート (講談社青い鳥文庫)

亡霊は夜歩く 名探偵夢水清志郎事件ノート (講談社青い鳥文庫)

「ゴーストはよるあるく」と読みます。夢水清志郎事件ノート第二作。
買ったのは講談社文庫版。2006年7月の第一作「そして五人がいなくなる」に引き続き、青い鳥文庫からの移植分です。どうでもいいけどこの題名、クリスティの「そして誰もいなくなった」に似せてるな。
私にとってこの本は、小三のときに青い鳥文庫版を買い、中学生になると同時に売り払って以来なので、実に六年ぶりの本作。思い出しつつ読ませてもらいました。
今回のストーリーは、こんな感じです。

自信に毒舌、食い意地や推理力はあるが、普通の人が持っている記憶力や常識などはまったくない自称名探偵の夢水清志郎。彼が語り手の岩崎亜衣、妹の麻衣・美衣が住む家の隣に引っ越してきて、半年が過ぎた。
彼は前作「そして五人がいなくなる」で「伯爵事件」に遭遇した折、警視総監をコネで脅迫して捜査に介入したきり公の場で事件を解決せず、へぼ探偵のレッテルを喰らって平然としていた。
しかし、実際には事件を解決し話を丸く治めていることを、本人と三姉妹、それに犯人は知っている。

さて、岩崎三姉妹は私立虹北学園という学校に通っている。明治時代からの歴史と広い敷地、それに会員式秘密結社まで認める寛大なクラブ活動と五日の準備期間を取り地元商店街を巻き込む大規模な学園祭などが特徴で、その結果四つの怪談なるものまで生まれている。
物語は、その怪談のひとつ「時計塔の鐘が鳴ると、人が死ぬ」が、ある日突然実現した事に始まる。
問題の時計塔はだいぶ前に故障していたのだが、近隣住民から鐘の音に関し苦情があったこともあり、そのまま放置されていた。それが突然、鳴り出したのだ。
怪談は学園関係者には広く知られているので、誰もが不吉と捉えたが、それ以上の話に発展する事はなかった。学園祭が迫り、それどころではなかったのだ。
時を同じくして、自らの不注意で学級の学園祭実行委員会副委員長、ありていに言えば委員長の「奴隷」になってしまった岩崎亜衣は、所属する文芸部のワープロ(時代を感じる)に「亡霊からのメッセージ」なる怪文書を発見する。
自称名探偵の同級生、中井麗一によれば、それは亜衣が夢水とのつながりを持っているからだという。いぶかしむまま学園祭と文芸部に精出すうち、他の三つの怪談に絡んだ事件が次々に起き、準備期間は異様な雰囲気に包まれ始める。

今回、ワトソン役の亜衣の実質的彼氏(本人の同意はない)の中井麗一が初登場。自分が敬意を払う相手にしか敬語を使わない彼が、夢水に対してはなぜかへりくだるあたり、妙に愉快でした。
さて文庫版あとがきにあるとおり、この本は実に多くを語り残して終了しています。つい最近まで生徒だった身として、教育問題うんぬんが本作の出版時期から問題になっていたことを思い出しています。
作者のはやみねかおる、別名勇嶺薫が当時現役の教師だった事も伺える話でした。本人も文庫版あとがきでそう書いてますが(今は専業作家)。
それにしても、夢水シリーズが文庫になったことは、一応国際条約に指定される子供でなくなった私にとってありがたいのですが、他のシリーズはどうなるんでしょう。怪盗クイーンシリーズもひらがなを漢字に直せばそれなりに通用しそうですし、バイバイスクールあたりも再販してもらえないものかと思うのですが。