精霊の守り人

精霊の守り人 (偕成社ワンダーランド)

精霊の守り人 (偕成社ワンダーランド)

原作が新潮文庫に入っていたので、買って来ました。
アニメ版ではトーヤとサヤが活躍していたり、タンダがいい男だったりして(と言ってもプロモーション映像プラスアルファ見ただけだけど)まだ児童文学だった頃のハードカバー版を読んでいた私には予想外でしたが、いわゆる原作レイプにはなっておらず、それどころか原作が結婚してますますきれいになったような印象を受けたので、何も言わない事にします。
精霊の守り人は「守り人シリーズ」という、原作者である上橋菜穂子助教授曰く「バルサとチャグムの物語」の始まりで、この文章を書いている現在は十巻が出版され、そこで一区切りついているそうです(後半未読のため不明)。
概要は以下の通り。新潮文庫版裏表紙などから引用。

山国カンバル王国で育ち、事情があって女用心棒をしている通称“短槍使いのバルサ”は、沿岸の新ヨゴ皇国に立ち寄った折、皇都で偶然、突発事故で川に流された第二皇子チャグムを救う。その夜、二ノ宮で歓待された彼女は、皇国のニノ妃からチャグムを連れて逃げるよう頼まれる。
その原因は、なんと皇子が水の妖怪に取り付かれてしまったためという。
ヨゴには星導師を頂点とした星読博士という学者・官僚集団がいるが、彼らに表立って除妖を頼めないのは、ヨゴの建国神話(「建国正史」)に理由があった。
皇国の建国神話では、ヨゴ人の祖先は海の向こうのヨゴ皇国から新天地を求め脱出してきた者たちとされる。
神話には“旧”ヨゴ皇国の元第三皇子で初代皇帝のヨゴ・トルガルと、天道(ヨゴの伝統的な宗教)の道に長けた初代星導師カイナン・ナナイを指導者とする一団が、この土地に受け入れられるまでが語られていた。それによると、トルガル帝はこの地の先住民ヤクーに頼まれ、山間部に巣食う水妖を退治したことになっている。
そのため、皇帝の子孫が水妖を宿したとあっては都合が悪かったのだ。
現に皇子は何度も暗殺されかけ、水妖の特殊能力でこれまで救われてきたといって良い。このままでは皇国の威信をかけ、父帝が何度でも彼を殺そうとする。だから逃げてくれと、二ノ妃は頼むのだった。


さて、当の星読博士の中でも、同じことを考えたものがいた。
星ノ宮きっての秀才と謳われる若い星読博士シュガは、皇子に宿ったものと建国神話に登場する水妖に共通点を見出し、過去の記録を調べ始める。そして調査が進むにつれ、建国神話はその名の通り、まさしく「神話」であり「正史」であることが明らかになって……。
守り人シリーズ第一巻。建国神話の秘密、先住民の伝承など文化人類学者らしい緻密な世界構築が評判を呼び、数多くの受賞暦を誇る。

子供の頃に読んだ時には、はっきり言って凄さが分かりませんでした。少なくとも「ゲド戦記」や「指輪物語」のように広大な世界を旅するわけではなく(後になれば違うけど)、和風テイストのおもしろいファンタジー、といった位置づけをしていたんでしょう。シリーズが出ていても「虚空の旅人」(第四巻)あたりでやめてしまったのがその証左です。
しかし今読んでみると、驚きました。今まで読んできたファンタジー(名誉のためにいちいち挙げません)とは格段に違います。まさしく文庫版解説で恩田陸さんが言っていたように「ラッキーだ」と確信しましたね。匂いばかり嗅がせてますが、これ以上何を言ってもネタバレになりそうなので言えません。
それに、謎の鍵が単なる「権力の圧迫」ではないのも興味深いところ。ヨゴの伝統行事、星ノ宮の記録、ヤクーの伝承、すべてが話を解決させるのに一役買っています。さすが文化人類学者、では片付かない事だと思います。


ハードカバー版と軽装版のきれいな挿絵がなくなったのは正直残念ですが、文庫版は漢字が多くなって大人には読みやすくなり、新たに読者を獲得できると思います。もちろん、私みたいに「小さい頃読んだ本が文庫になったのでまた買った」人もいるでしょうが。
名作が安く手に入る、この期に買ってみてはいかがでしょうか。原作を読めばアニメのネタバレになりますが、アニメも最近は違う方向に突っ走っているらしいので、逆にどうやってラストに持っていくのか楽しめるかもしれません。
これはしかし、歴史小説の楽しみ方じゃなかろうか。