理由は分かってます

演出がねちっこいのが響いたに決まってる。
いや、冒頭の伊藤会館事件だけでそれが分かるってものですよ。事件が起きて京城府警察の文字も新しいパトカーとともに、JBIの武装トラックが車回しに進入するところでかぶさる、テレビ局のリポーターの声とか。

現在、人質をとって伊藤会館に立てこもっているテロリストたちは、みずからを「朝鮮解放同盟」と名乗る不令鮮人であることが明らかになりました。
「日本と朝鮮は決してひとつの国ではありえない、分離独立すべきだ」とする彼らの主張が、朝鮮系日本人たちの間ですら支持されないとなるや不胆なテロ行為も辞さなかった彼らは、2007年日本文化研究所侵入事件で首脳部が全員逮捕され、すでに組織が瓦解したものと思われていましたが、今日このようなテロが再び起こったことで、彼らの組織が地下深くで秘密裏に拡大していたことが確認されました。

見ての通り、ちょいちょい日本語が変。
上のリポーターは朝鮮系ですが、他にもいろいろとあからさますぎる朝鮮の日本化が確認されています。
朝鮮総督府建物が史実どおりの場所にCGで再現されているとか日本統治時代の地名表示がされているとか、道路が左側通行とかビルの広告が日本語とか、李東国選手の胸に日の丸とか日本人キャラの私服が着物とか。
まあ、その辺はまだいいんです。
しかし、朝鮮系日本人が相撲中継見てたり、光化門ロータリーの李舜臣像が馬上の太閤像に変わっているのは、さすがにどうだろう。
さらに坂本(チャン・ドンゴン)と西郷(仲村トオル)の扱いも、ついでに言えばテロリストとJBI兵の扱いもおかしい。
たとえば建物に突入して廊下両側の部屋を確認するとき、坂本は兵士がドアを突破するとすぐに部屋へ拳銃を向けていますが、西郷は兵士に顎で指示して自分は比較的余裕を持ちつつ部屋に目を走らせています。
面白いのが、兵士へ指示を出すのはたいてい西郷ということ。いまだ残る朝鮮人差別を表したんでしょうか。
さて、JBI兵と同盟構成員の扱いの差は、それこそ圧倒的です。
当たらないJBI兵の小銃弾、必中する同盟員の拳銃弾。そして最後は数の暴力で同盟全滅。明らかに死人はJBIの方が数倍してるでしょうね、ありゃ。
さらに、当然同盟員は勇敢だったり行動的だったり、ついでに顔もよかったりするわけですが、JBI兵は全員防弾ジャケットにフルフェイスマスクで顔が分からず、まるでゲームのザコ敵そのまま。
さらに、JBIの朝鮮系刑事(=親日派)は同盟員に捕まって頭に拳銃押しつけられてます。最後には隣で同盟員が蜂の巣になってるときに頭抱えて丸まってるだけだったり。
まあ一番ひどいのはJBIの部長で、まったくその場と関係ないところで朝鮮人差別まるだしの発言がぽろぽろ。京城が名古屋を抜いて日本で三番目の年になってるご時勢にもそういうのを警察官として登場させる、脚本家の意地悪さが透けて見えますよ。
西郷が広い敷地の日本家屋に住んでて夫婦ともども着物を着てる、典型的保守派日本人だったのも、もはやオアシス。

正直、この映画で評価できるのはセリフひとつだけですね。

坂本、俺はお前のこと朝鮮人だなんて思ったこと一度もないよ?

夕食に呼ばれた坂本に、西郷が言った言葉です。
西郷本人は民族より国籍を重視しているようで、「とっくの昔に朝鮮という国はなくなって、日本というひとつの国としてやってきた」なんて平気で言いますが、これはこの世界の日本でも八紘一宇思想が広まっていると同時に、都合の悪い歴史を捏造するという誰でも一度はやったことのある手口が現在進行形で使われていることを表しているのでしょう。
しかし、陰に陽に朝鮮系が差別されているのは確かなようで、西郷はそれを踏まえて「お前も俺も、れっきとした日本人だ」と言いたかったのだと思います。
ところが、自分が朝鮮人だと自覚している坂本としては、そう言われても嬉しくもなんともないわけですね。
西郷は坂本の親友で、最後には敵となる(その経緯も妻子のためという、比較的いい扱い)のですが、その親友の西郷でさえこうした先入観を持ってしまっていることがわかるいい描写でした。
こういう描写なら、真似てみたいんですがねえ。
いかんせんこの映画、参考にするには他が悪すぎる。くどい演出とかくだらないオチとか。

ところで、西郷が同盟のテロについて「現実から目をそらせようとする、やつらの時代錯誤的な発想」を真の問題と指摘していますが、これは韓国で右翼認定された日本人の方々にあてこすっているのか、それともこの世界の同盟とテロ活動を通して「誰にでもそういう傾向がある」と伝えているのか。
あまりに言い方が露骨すぎて、一瞬後者の可能性を考えてしまいました。

追記。
音声解説を見ていると、製作陣はかなり世界観に気を使っていることがわかってきました。
まあ白黒塗装に京城府警察のパトカーをはじめとして、西郷の着物姿も大日本帝国の文化が続いていればおかしくないし、坂本も韓国文化のもとでは父の友人の前でタバコを吸ったり(そういうシーンがある)しないのに、劇中ではやっていたりします。さらに坂本の好物が寿司で嫌いなのがキムチというのも、日本統治下ならではの好みといえばいえるでしょう。
やはり韓国文化をよく知らないと、この映画も評価できないのかもしれません。オチの評価は譲れないけれど。