図書館戦争なる

新作アニメがあるそうですね。
題名にある二語の関連性がいまいちわからなかったので、近くの有隣堂でTB*1を敢行することにしました。
前々から名前を聞いてはいたものの、近頃特に私の周りが関心を持ち始めたProduction I.G作品というふれこみのようですが、同じI.Gでも攻殻機動隊SAMURAI7は好評なのに、個人的お気に入りの精霊の守り人は結構ボロクソに言われていたりして、今回も少し不安です。
ま、それはともかく。
いつものごとくストーリー紹介を簡単に。

昭和最後の年。
憲法違反という声を押し切って成立した「メディア良化法」は、公序良俗を乱し人権侵害の表現をとりしまるものとされていたが、その条文には多分に拡大解釈の余地があり、実質的な言論統制の道具とされた。特に、政府隷下の「メディア良化委員会」と「良化特務機関」による超法規的かつ専制的な活動により、三十年を経て言論弾圧(と、言ってもよいレベルの問題になっていた)は厳しさを増すばかりだった。
このメディア良化委員会にかかれば、書店においては入荷物を検閲し、出版社においては流通差し止めを命じ、報道機関においては放送を禁止・訂正を割り入れ、さらにインターネット上であってもプロバイダに該当ページの削除を命令できるという、強大極まりない権力を持っている。
ひるがえって、彼らに対抗しているのが──


地方図書館なのだった。


彼らは地方行政団体という側面から、資金難にあえぎつつ国から一定の距離を保てている。図書館の自由に関する宣言をもりこんだ改正図書館法により、メディア良化委員会に面と向かって文句を言える法的根拠を、彼らは手にしているのだった。
良化機関の儀礼を重んじない検閲態勢に対抗し、彼らも武装を始める。図書隊とよばれるこの部隊は、当初は警備隊ほどだったのが、“日野の悪夢*2”などを経て大規模化した。
結果、今では両者とも、火器を含めた激しい対立となっている。


双方に死傷者が出ても、第三者の権利を侵害しない限り、超法規的解釈によって不問とされるのが実態だ。そして図書隊の内部にも、行政に一歩譲るべきか原則を堅持するべきか、意見対立がたえない。


主人公の笠原郁が入隊を希望した図書隊は、そんなところだった。

今回は世界観だけで、冒頭部分などは一切書いておりません。
なぜなら、さきに別の方向へ思考が飛んでしまったからです。
「日本読書公社」という短編小説を、ご存知でしょうか。
いきなり思い出せる方は、シーナファンか異端の日本SFファンだと思いますので、概要を説明しておきます。

潤目良平は、日本読書公社の二級読み師だ。
所属しているのは創作部一般随筆課風俗雑本係。要するに、部内でもっとも軽んぜられる部署なのだが、社内の空気は他の部署でも同じらしい。


その日も新刊の検閲のため、割り当てられた新書四冊を速読で評価してゆく。ただそれだけの仕事といえばそれまでだが、人畜無害どころか著者の自己顕示欲の塊にしか思えないエッセイや、官報風の押し付け論法を読みこなせと言われても困るところがある。


さて、この世界には闇本というものがある。
文字通り地下出版物、つまり公社の認可が下りないような本がさばかれているのだ。そして公社は、その闇本の一世摘発まで考えねばならない状況に追い込まれていた。
同期の引きもあり、彼はその摘発作戦に加わることとなる。ところが読書好きの彼としては、闇本を取り締まるより検定基準を下げるべきではないかと考えていた。

ご覧のとおり、多少権限は違うにせよ、上でいう“良化機関”の側から話を描いているわけです。
著者の椎名誠氏の名誉を守るため付言しますと、この短編は(手元にある短編集「蚊」の場合)昭和六十二年に収録されております。メディア良化法は一年後だから、あきらかにこの短編集は禁書扱いでしょうね。


いやあ、世の中似た考えはあるものですね。
もちろんこれは、世界をきっちり考えて言論の自由にかんする武力抗争というとんでもない長編を練り上げた有川浩氏を、なにか糾弾する意味で言ったわけではありませんし、その逆に椎名誠氏の批判でもありません。あしからず。
とか言いつつ、良化機関側の主人公なんてどうだろう、とシリーズ完結後の今になってぽつりと呟く私がいるのですが。

図書館戦争

図書館戦争


蚊 (新潮文庫)

蚊 (新潮文庫)

*1:Thoroughly Browsingの略。立ち読みで読破すること

*2:劇中世界で、良化賛成派の政治結社が日野市立図書館を襲撃し、死者十二名負傷者多数、蔵書全損という被害を出した大惨事。情報伝達ミスで警察の出動が大幅に遅れ、そのせいで被害が拡大したこともあり、良化委員会の陰謀説が根強い。図書隊と良化機関との抗争激化につながった