また前置きが長くなりましたが

というわけで、先の「SS-GB」に対し、アメリカの歴史改変小説をご紹介。
つっても画像も何もありませんが。
「合衆国復活の日
原題は「RESURRECTION DAY」。
直訳すると「復活の日」ですが、まあ小松左京大先生の未来を予見した傑作SFと同じ名前ではたまりませんし、合衆国とつけた方が分かりやすいのでGJです。昔のトム・クランシーものなんかは「Debt of Honor」が「日米開戦」に改題されていたりしますので、まったく変わっていないと言ってもバチは当たらないでしょう。
例によって、ストーリーは以下の如し。

キューバ戦争から、十年が経った。
世界は十年前とは様変わりしている。もはやソヴィエト連邦キューバは存在せず、欧州すべての国が民主化の道を歩んでいる。いまや中国は国民党のものだ。南北朝鮮は和解に向かっている。ベトナムは統一され、日本とフランスが援助合戦を繰り広げているが、日本が優勢だ。
そして何より、アメリカ合衆国は落ちぶれはてた。いまやアメリカは旧宗主国のイギリスや国連が与える施しに頼って、日々を食いつないでいる。
さらにアメリカは、十年前とは一転して、全世界の国々から哀れみと軽蔑の目で見られている。
理由のないことではない。
核戦争を始めたのは、ケネディ以下アメリカ首脳陣なのだから。


終戦直後の戒厳令が未だに解除されず、検閲が当たり前の時代。
ボストンで新聞記者をしている退役軍人カール・ランドリーは、ある老人から大きな事件のネタを提供すると約束される。しかし接触しようとした矢先、当の老人が殺されてしまう。
死んでしまった男のネタについてはあきらめ、彼は殺人事件の簡単な記事を書いて提出した。ところがその記事が消されている。検閲以外に理由は考えられなかった。
むきになって事件を追うランドリーは、国家により手を変え品を変えて妨害される。しかし彼は、「彼は生きている」、「特殊部隊ゼータ・フォース」、「核汚染地帯再入植」、「真のアメリカ」など、さまざまな情報の断片を手に入れてゆく。
そして彼がたどり着いたのは、合衆国の陰の権力者にして、ソヴィエト戦略ロケット軍司令官と独断で和解し、世界を破滅から救った英雄。
空軍大将、ラムジー・カーティスだった。
復活の日が来る。スラッシュが来る。
そしてランドリーは走り続ける。合衆国復活のために。

この物語の舞台となる世界では、つまりキューバ危機が危機で終わらなかったということになります。
アメリカの主要都市はことごとく爆撃を受け、今(一九七二年)では野生動物がうろつく廃墟と化しました。ソヴィエトも消滅する時に敵対陣営を道連れにするため、大量の核ミサイルを保持していたのですが、先述のごとくラムジー・カーティス・ルメイ将軍がソヴィエト側の制服組と休戦したために、旧西側諸国はほとんど被害を受けていません。それどころか、三十年近くも早くに東欧民主化が成立したことになっています。
カーティスは未だに隠然と権力を保ち、大統領を傀儡に仕立てています。軍の権力は絶大で、新聞の検閲も軍が行っている状態。もっとも、そのお陰で人種差別団体はのきなみ潰されており、黒人や少数民族の社会進出は史実の同年代より進んでいるのですが。
この小説でもやはり、零落したアメリカの日常生活に関する描写に感心しました。今書いたようなことはそのまま表されているわけではなく、何かの拍子にさりげなく書いてあったものをまとめたものです。文面を見つけるのに結構苦労したことを白状しましょう。
そして、ニヤリとしたのが次の文章でした。
核汚染によって立ち入り禁止地帯に指定されているニューヨークの限定解放に伴って、ランドリーは英国人記者のサンディ・プライスとともにゴーストタウンへ赴きます。そこで、ランドリーが彼女をみた時の心理描写が以下の文章。

彼ら(「ドイツや日本の新聞記者」)の態度や笑い声には、一種の……報復の感情があるようにカールは思った。彼らの国の都市は爆撃され、産業は破壊され、民間人は殺された。すべて前の世界大戦でアメリカの爆撃機や武器が行ったことだ。
自分が偏った見方をしているのはわかっているが、彼らはこの訪問を楽しんでいるようだった。アメリカの都市に起きたことや、十年たってもまだ主要都市が放棄されたままである事実に、ほくそえんでいるようだった。
ベルリンと東京は、一九五五年にはもう首都として栄えていた。一九七二年のニューヨークはそうではない。

まがりなりにも小説の主人公がこうしたことを考えるという点が、この世界におけるアメリカの変容をすでに物語っていると思うのは私だけでしょうか。
繁栄していたころのアメリカの精神を引き継いだ誰かが同じことを思ったとしても、報復という概念を考えつくかどうか疑問に思えます。報復というのは、何かされたことに対する仕返しですし。
やはり架空世界における推理小説として、お勧めしたいと思います。トラップも含めて。