ゼロ

いつまでも鬱々していてもしかたないので、最近読んだ本(ラノベだけど)の話でお茶を濁すことにしましょう。
私が尊敬する(何人いるんだ)case_K様他多数によると、ゼロの使い魔なるアニメの第二期放映が数週間前に始まったそうで。
あまり好意的ではない評を聞いていたので素通りしていたんですが、ハルケギニアなる単語を聞いて考えが変わりました。これは物語世界の舞台となる、大陸の名前なんだそうですが、それはこの際どうでもよろしい。
わからない人には、何のことかさっぱりでしょう。
しかし、私と同じものを思い出す方も少なくないはず。
そう、カンブリア紀についてかじったことのある人間なら誰でも知ってる伝説の生き物にして、“神の壮大なる実験”バージェス動物群の名に恥じぬ有爪動物、ハルキゲニア・スパルサです(参考1同2)。
もっとも、ハルキゲニアの語源たるハルキアラテン語で幻覚)からの造語と言われれば言い返せないんですが、私がこの本を手に取った理由はそれでした。
国や町の名前がアノマロカリシアとかウィワクシアとかオパビニアとかだったら、面白そうじゃないですか。

などと、勝手にニヤニヤしながらブックオフで立ち読み進めていきますと。
驚いたことに、地名に関しては驚くほど「マトモ」でした。


ストーリー上、主人公は異世界からの来訪者なので、彼の国はまあおいといて。
ヒロインであるルイスの国が「トリステイン」。トリスタン物語が語源でしょうか。
その南の強国が「ガリ」。
そのさらに南が「ロマリア」。
東にある新興国が「ゲルマニア」、首都「ヴィンドボナ」。
西の空に浮かぶ浮遊大陸上の国が「アルビオン」、首都が「ロンディニウム」。
ここまで現実世界をパロられると、清々しくさえ感じます。
現実の欧州を架空世界に応用するのは西洋ファンタジーの常道とはいえ、名前までそのまんま流用するとは思い切ったことをしたものです(気になる人は太字部分でググってみましょう)。トリニティ・ブラッドなどもその気はありますが、あっちは未来の地球が舞台だしなあ。
ざっと見て分かるとおり、トリステインとガリアはフランス風、ロマリアはイタリアというか教皇庁風、ゲルマニアはドイツ風、アルビオンはイギリス風の地名人名になっています。
作中世界ではこのほかに先住民エルフという勢力が存在しますが、さすがにこれにはモデルはないでしょう(あるとすりゃ正統カリフ政権かな)。
さて、私はこれで引用は終わりと思っておりましたところがどっこい、人名に関してもオマージュの嵐が待っておりました。
作者の方があとがきで明言されているとおり、ルイズのモデルはルイ14世の愛妾ルイーズ・ド・ラ・ヴァリエールですし、彼女の級友キュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストーは「キュルケ」以外がマリア・テレジアの旧名。キュルケはギリシャ神話の魔女が語源でしょう。
主人公の悪友(?)ギーシュ・ド・グラモンはデュマの「二十年後」から登場する(私が読んだのは続きの「ブラジュロンヌ子爵」だけですが)ギーシュ伯アルマン・ド・グラモンですし、トリスタニア王女(後に女王)のアンリエッタはルイ14世の義妹アンリエット・ダングルテールと思われます。
他にもトリステインの魔法教授ジャン・コルベールルイ14世治下の財務総監)とかアルビオンの革命家オリバー・クロムウェル清教徒革命の指導者)とか、中世ヨーロッパの授業で参考になりそうな名前が続出。実在の人物から引っぱった名前を見ると、ダルタニャン物語*1ネタが多い傾向が……
……と思ったら本当にそのようです。あたりまえですが先人がいました(「ヤマグチノボル『ゼロの使い魔』 人名出典一覧(改)」)。
どうも三銃士が一アトスの息子、ブラジュロンヌ子爵ラウルが主人公のような気がする「二十年後」未読者でした。
ちなみに、ラウルと聞いて私がまず思い出すのは、幼名ラウール・ダンドレジーことアルセーヌ・ルパンだったりします。

*1:アレクサンドル・デュマの大河小説シリーズ。「三銃士」「二十年後」「ブラジュロンヌ子爵」の三部作からなる……らしいんですが、私は「三銃士」と「子爵」後半のいわゆる鉄仮面エピソード+αしか読んでない罠orz