ところで、昨今のウイグル暴動ですが

こんな記事が。


私はこうみる 「チベット騒動」時とは異なる国際社会の反応産経新聞


産経系のニュースサイト「イザ!」に掲載されていた、上海社会科学院の趙国軍という研究員による談話です。突っ込みどころ満載なのは当然として、バリバリ右翼の産経に中国側の意見がでてくるという意外性もありますし、裏読みが面白そうなので挑戦してみました。
全体的に見ると、中国では「科学」という言葉は科学的根拠がなくとも使われる頻度が高い、ということになるでしょうか。もし談話が本気なら、どこか遠くの遊星で幸せに暮らしていただきたいものです。
以下引用とイチャモン。

 新疆ウイグル自治区で5日発生した暴動は在外組織「世界ウイグル会議」のラビア・カーディル(議長)によるテロ組織がしかけた。この「分裂分子」は6月に広東省で偶然起きたウイグル族と漢族の乱闘事件を利用し、同自治区で過去最大級の厳重な事件を引き起こした。

なんという説明口調。
要約すると、偶発的な暴力事件をテロリストが利用したと言いたいんですね。
日本の口さがない人々のあいだでは、すでに海外ニュースから推測して
1.ウイグル族を狙い、少数ずつ労働者を沿岸へ移送
2.当然、移送先の漢族労働者がクビになる
3.腹いせに漢族労働者の一人が、ウイグル族に関するデマをネットに流す
4.ネットを見て憤慨した漢族労働者が、近場のウイグル族労働者を暴行
5.上の事件を聞いて、新疆で暴動発生
という話が、まことしやかに囁かれているのですが。
さて、次に注目。

今回の暴動は宗教問題を主張してはいない。新疆ウイグル自治区に近接する(キルギスタンなど中央アジア)地域から入り込んだ組織も、今回は目立たなかった。もっぱらカーディルの扇動による暴動だ。

ここで趙氏は重要なことを指摘しています。
宗教問題は関係なく、キルギスタンの組織もあまりない。
テロとの戦い」で欧米と歩調をあわせつつ少数民族をおさえたい中国が、黙ってればいいのにわざわざ「関係ない」と言うなら、それは嘘ではないでしょう。つまり、昨今はやりのイスラム過激派ではなく、もっぱらウイグル族の暴動ということです。
まあ、いくらテロ対策と強弁したいとはいえ、ウイグル会議に話が飛ぶ理由が分かりませんが。
そんなにオープンに接触できるんでしょうか。

 漢族はウイグル族など55の少数民族との融和と団結を求めており、差別などはない。一人っ子政策の適用除外など少数民族はむしろ優遇されている。改革開放政策で(経済的な)格差が生まれていることが不満を生んだが、例えば(漢族の)私の四川省の両親の生活レベルよりもウイグル族の方が高い。

はいはいわろすわろす
差別がない国なんてありません。一人っ子政策の適用除外なんて、書類ごまかして少数民族になりすます漢族カップルのせいで、ほんとうの少数民族の人がどれだけ涙を飲んでるか。
経済にしたって、ランダムサンプリングもしないで断言するあたり、お里が知れますね。だいたい何を生活レベルの基準にしてるのかさっぱりです。

 昨年3月のチベット騒乱で中国を非難した国際社会だが、今回のウイグル暴動では反応が違う。今回は発生当初から内外のメディアに広く情報を公開してきた。しかもチベット騒乱の後に中国は「北京五輪」を成功させ、金融危機の発生でも世界経済に貢献した。中国は世界の中で重要な存在になってきた。
 世界の平和と発展に、中国の安定はもはや欠かせない。米国のヒラリー国務長官が訪中した際も「人権問題」は大きく提起しなかった。オバマ政権にとって、北朝鮮やイランの核問題などで中国との協力が必要だ。

内外のメディアに、広く中国に都合のいい情報だけを公開してきた点は、たしかに進歩といえましょう。金融危機の中で欧米が経済的に対中依存を強めている以上、中国が世界の中で重要な存在というのも間違いない。
しかし、世界の発展はともかく平和に、中国の安定が欠かせないかどうかは疑問です。
なにしろその次に「北朝鮮やイランの核問題などで中国との協力が必要」と断言されています。つまるところ、かれらは中国の言うことなら聞くということを、国立研究院があらためて表明したに等しいわけで。
国際社会が平和でも、世界が平和じゃなきゃねえ。

暴動のリーダーは厳重に処罰しなければならない。扇動されて暴動に加わった大衆にも教訓を与える必要がある。(国外メディアなどは)武力投入というが、「鎮圧」などではなく社会秩序の維持だ。日本でも米国でも暴動を抑えるのは当然だ。新疆ウイグル自治区の安定を維持し、暴動再発を予防すべきだ。

 国外メディアは「色眼鏡」をかけて中国を見る報道をやめねければならない。歪曲(わいきょく)した先入観ではなく、客観的に中国の事実を報道してほしい。さもなければ事態を一段と複雑化させる。

今回の暴動に、リーダーなんているわけない。ので、おそらく何人か先に目星をつけておいた運動家を、これ幸いと引っ張る気でしょう。
治安維持の観点から言えば、ほめられる事かもしれません。
とはいえ、アメリカはともかく日本は、暴動のときに機動隊が出張りはすれ、全国の民間機を止めて何万人もの武装警察(制度・実質的に軍の予備部隊)を輸送したりはしませんぜ。学生運動のときも都機だけでがんばってたし。
「色眼鏡」については、まあ一度ぐらいボールドで叫んでおきましょう。


今週の「お前が言うな」はここですか?


だいたい、地域の安定を本気で維持したいのなら、少し考えてみるべきでしょう。
もし在外組織が扇動した国家分裂の陰謀だというなら、なぜウイグル族のみなさんはその「陰謀」に乗ってしまったのか。結果が分かっているのにあえて暴れることを決めるには、相応の理由がいります。
再発を予防すべきというなら、「教訓(どうせ見せしめでしょう)を与える」だけで本当にいいのか。中南海ウルムチ発の南航機が突っ込んでも知りませんよ。
参考までに、社会主義の元祖・全ロシア共産党の名言をあげておきましょう。


労働者の諸君。
我々には、首枷以外に失うものなど、何もないのだ。



追記。
上のような考え方を、ポストモダンまたは揚げ足取りといいます。