早速行ってみましょうか

翻訳。
ある言葉で書かれたものを別の言葉に訳すことは、とんでもなく難しいことです。
長文の和文英訳などやったことのある方はお分かりでしょうが、そもそも文法体系が違う言語だったりすると面倒で仕方ないし、そもそも言葉が違うのだから各語に意味がぴったりはまる単語があると決めてかかると痛い目に遭います(私は遭った)。


その意味で、すごいと思うのですよ。
何がと言って、Youtubeファンサブが。
別に専門家でもなんでもない暇人が(どこの国かは知らないが)、ジャパニメーションや韓ドラ華ドラの台詞を違う言語に身一つで訳し、それを字幕にしてアップしている。あからさまな著作権侵害とはいえ、英語が苦手な私からすれば驚嘆すべき語学力ですね。


当たり前ですが、翻訳は、すべての単語を直訳すればいいわけでもありません。古い例で言えばRain cats and dogsは「犬猫の雨」とは訳さずに「土砂降り」と訳すし、Go to the dodgeは「ダッジに行く」ではなく「さっさとずらかる」になります。
ようつべでは思わず笑ってしまうような誤訳もちりばめられておりますけれども、上手い翻訳も確率統計にしたがって存在するわけです。そういえば昔、確率統計の研究と言いつつトランプやってたな。


で、上手い翻訳。
例として、私が過去に見ておりしかもようつべ上で大量の字幕版が出ている、「涼宮ハルヒの憂鬱」を取り上げてみます。
自覚せずに絶大な威力を発揮する特殊能力を身に着けているヒロイン(たぶん)涼宮ハルヒについて、監視員の古泉一樹と巻き込まれ主人公が会話を交わすシーン。古泉は彼女の能力を神と表現し、ハルヒには特殊能力を眠らせたまま生涯を送ってもらった方が無難だと言います。
そこで、主人公の台詞。

「触らぬ神に祟りなし、か」

この短い言葉の翻訳が、私を心底驚嘆させたのです。


まずは普通の翻訳。中国語訳の例を取り上げます。
既に映像は消えてしまっているので参考までに名を挙げておくと、Klisa0506「03 涼宮ハルヒの憂鬱Ⅲ part3」より。台詞の箇所では、こんな字幕が出ていました。
「这就是所谓的“人不犯神 神不犯人”吧」
直訳すると「これは、言うところの“人が神を侵さなければ、神も人を攻撃しない”か」といったところで、まあ、意味的には順当なセンと言えます。中国語のことわざ「人不犯我 我不犯人」を、話に合わせてもじったと言うところですね。


さて、問題は英語訳。
「Let sleeping gods lie, huh...」
「寝ている神はそのままに、か…」

この訳、一見なんてことなさそうに見えますが、実はかなりキテるんです。

まず"Let sleeping gods lie"について。これは"Let sleeping dogs lie"「寝ている犬はそのままに」という、触らぬ神と似た意味のことわざのもじり。
そして、この文はことわざのもじりとして見なくても、そのまま意味が通じるんです。“寝ている神”つまり涼宮ハルヒはそのままにしておく、と言う古泉達の方針を、この英訳は表しているわけです。
さらに、godsとdogsの綴りに注目。単語内の文字数や組み合わせが変わっていないところがミソで、ぱっと見には違和感は覚えても、そこの部分が変わっていることに気付きません。dとgを入れ替えるだけで、見事に話とマッチしてしまうのです。

ネット上のある意味で気安い空間ですが、こんなところに凄い翻訳があったものだと、その後数分間音声を聞かずに私は唸ってしまいました。


私は上手い訳文は作れませんが、創作のほうで上手い単語をひねり出して行きたいところです。
ないものを作るのは非常に苦労が伴いますが、それが楽しいのですし。